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「モチイエ女子」、ありだと思う。

つい最近まで、女性がひとりで家をもつって
ごく少数派で、ちょっと変わってると思われていた。
マイホームをもつことは、家族の幸せと考えられていた。

いったい誰がそんなことを決めたんだろう。

女性が家をもつって、あんがいあたりまえじゃない?

そんな声が聞こえてきそうなほど、
今、ごくフツーの女子たちが、じぶんの家を買う時代になっています。

家というホームグラウンドを手に入れ、
これまで以上にパワフルに、イキイキと輝いてる「モチイエ女子」。

そんな新しい女性たちが増えれば、この国はもっともっと元気になるから。
なによりそんな未来が、素敵でおもしろそうに思うから。
私たちはこの「モチイエ女子project」を通し、
その生き方、あり!と宣言します。

モチイエ女子web

お知らせ

モチイエ女子webにて、エッセイなど多数寄稿いただきました 雨宮まみさんがご逝去されました。心からお悔やみを申し上げます。 感謝と哀悼の意を込めまして、これまでの雨宮さんの作品、およびご出演いただいたコンテンツは、このまま掲載させていただきます。 どうか、ご愛読いただけますと幸いです。

理想の部屋まで何マイル? MILE 26

玄関

昔思い描いていた理想の玄関は、シューズクローゼットがあってその中に靴が全部おさまってすっきりしていて、何も置いてなくて、ほんのりいい香りが漂っている、そんなイメージだった。とびきり広い玄関だったら、傘立てぐらいの大きな壺に、枝ごと桃や桜を活けたりするのもいいな、なんて思っていた。
けれど、実際は玄関ほどごちゃごちゃする場所もない、というくらい、うちの玄関はカオスである。
1Kの家に住んでいる人なら同意してくれると思うが、そういう間取りの家では、玄関とキッチンが隣接している場合が多い。買い置きの24本入り炭酸水2箱とか、そういうものもここに置かざるを得ないし、不燃ごみなどを置くスペースもここになる。もちろん靴、傘、その他もろもろ出かける際に必要なものを置いたり、帰ってきてここに置きっ放しにしてしまうものもある。玄関はけっこうな戦場だ。
せめていい香りぐらい……と思って、アロマキャンドルを置いたり、お香を焚いたりしてはみたものの、こういうのって毎日のようにしていなければいい香りが定着していかないもので、帰ってきて「ああ~いい香り!」ということも、そんなにない。なんだか微妙にうまくいかない、それがうちの玄関の現状である。

そんなうちにも小さいながら靴箱はついている。この靴箱の中だけでもなんとかしたい。というか、この靴箱に何足、どう収納できるかにうちの玄関のすっきり感の命運がかかっている。必死である。できるだけ効率よく、一足でも多く入るように、でも見つけにくくならないように入れて、以前は小さなガラスの容器に塩を入れて、そこにミントのオイルを垂らして入れていた。密閉された空間の中だと、こういうのはけっこう香るもので、靴箱の戸を開くたびにミントの香りがするのは悪くなかった。
ただ、ちょっと香りが弱いかな? というのが気にはなっていた。そんなとき、たまたま行った美術館のミュージアムショップで、私は不思議なものを見つけた。半透明の石のようなものに香りがついているものだ。説明書きがないので何がなんだかわからなかったけれど、とにかく香りを楽しむものだということだけはわかった。その中のアンバーの香りが気に入って、買って帰った。

理想の部屋まで何マイル? MILE 26

あとで調べてみると、これはクリスタルポプリというもので、木の樹液を固めて香り付けしたものらしい。香りの立ち方がとにかく良くて、わりと自分にとってはいいお値段だったのだけど、諦めきれない香りだった。
普通の石けん箱よりも少し大きいぐらいのサイズの箱に入ったそれは、けっこう量があり、私は部屋の何箇所かに置いてみた。そして残りを靴箱に入れておいた。
部屋に置いておいたぶんは、最初のほうこそ近くを通ると良い香りがしたが、わりとすぐ香りが飛んでしまって、あまり匂いがしなくなってしまった。見た目もとても綺麗なのでまぁいいか、と思っていたけれど、思わぬ効果を発揮したのは、残りを入れておいた靴箱のほうだった。戸を開けるたび、いやな匂いひとつせず、ただあのたまらないアンバーの香りがするようになったのだ。こんなセクシーな香りに見舞われたら、こっちもついはりきって高めのヒールでもはいてやろうかという気分にもなってくる。
靴箱にはオイルより、クリスタルポプリだったか、というのも発見だったし、ミントよりもアンバーだったか、というのも発見だった。悪臭のしそうなところには爽やかな香りがいいと思い込んでいたけれど(実際に、ミントは確かになかなかの効果を発揮していたと思う)、テンションの上がる香りというのはまたそれとは別なんだな、と思った。
靴箱を開けたときにだけ香る、ほんのわずかな時間のつきあいの香りだが、それもはかなくて良い。

そういうわけで靴箱の中だけはいい香りがしている我が家の玄関だが、ほかはどうかというと、やはり靴箱に入りきれない靴が常に数足外に出ているし、炭酸水は積んである。ごみに関してはさすがになんとかしたかったので、玄関に置いているテーブルの下にきっちり収まるサイズの、硬めのゴム製のいい感じの容器を買って、そこに入れることにした。これはけっこう良い買い物で、ゴミ箱への投資は惜しまないほうが良いという教訓になった(よっぽどのことがなければ、人はゴミ箱を買い換えないので、長く使うから気に入ったものを選んだほうが良い)。
香りについては、花を活けるのがわりと好きになったので、香りの強めの花を活けておくと、香りも良いし見た目も良いし、いいなという結論にたどり着いたところだ。これもいつも欠かさずというわけではないけれど……。
と、少しずつ玄関を居心地のいいスペースにしようと努力してきたわけだが、現在、重大な問題が発生している。
自分でもなぜだかわからないが、この狭苦しい玄関スペースのほうが、仕事がはかどってしまうのである。私は仕事用の机をちゃんと持っているのだが、どうにも進まなくてノートパソコンを持って玄関に移動し、玄関の小さなテーブルの上でカタカタ原稿を書く、という時間が日に日に増えている。いくら百合の香りがしても、これでは本末転倒というか、もはやここが玄関なのか仕事場なのかわからないありさまだ。
片付けたからこそ居心地が良くなってしまったのだろうか……。玄関は、あまり長居できる場所にはしないほうがいいのかもしれない。今、うちの玄関でいちばん邪魔なのは、私と仕事道具一式である。

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丁寧な暮らし、上質な暮らしのお手本が溢れ、自分もいつかは理想の部屋に住みたいと思う。でも、忙しくて疲れているから、潤沢なお金がないから、インテリアのセンスに自信がないから、「いつか」はなかなかやってこない――。長年1Kの賃貸に住む著者が、それでも自分なりの理想の部屋に近づこうと奮闘し、「ようこそ」と人を招ける部屋になるまで。「満足な暮らし」を目指すすべての人に贈る、等身大の暮らしエッセイ。モチイエ女子webで連載されたMILE20までのコラムに、1章分の書き下ろしと自宅写真を加え、全3章立てで書籍化されました。
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文=雨宮まみ

雨宮まみ

ライター。編集者を経てフリーのライターになり、女性としての自意識に向き合った自伝的エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を上梓、「こじらせ女子」が2013年度の新語・流行語大賞にノミネートされる。 著書に、対談集『だって、女子だもん!!』(ポット出版)、『ずっと独身でいるつもり?』(ベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)など。

プロフィール写真=松沢寫眞事務所 / イラスト=網中いづる

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