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「モチイエ女子」、ありだと思う。

つい最近まで、女性がひとりで家をもつって
ごく少数派で、ちょっと変わってると思われていた。
マイホームをもつことは、家族の幸せと考えられていた。

いったい誰がそんなことを決めたんだろう。

女性が家をもつって、あんがいあたりまえじゃない?

そんな声が聞こえてきそうなほど、
今、ごくフツーの女子たちが、じぶんの家を買う時代になっています。

家というホームグラウンドを手に入れ、
これまで以上にパワフルに、イキイキと輝いてる「モチイエ女子」。

そんな新しい女性たちが増えれば、この国はもっともっと元気になるから。
なによりそんな未来が、素敵でおもしろそうに思うから。
私たちはこの「モチイエ女子project」を通し、
その生き方、あり!と宣言します。

モチイエ女子web

山内マリコ連載 きょうも家から出なかった

大したことは起こらないけれど、家にいられるだけで充分幸せ。山内マリコが綴る“家から出ない日”の日記。

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Dec.2018 はちみつ、停電、リバーシ禁止令。

12月某日

夜中、原稿に追われてパソコンに向かっていると、ふっと醤油の味を思い出した。そのへんのスーパーに売っているふつうの醤油ではなく、2016年に瀬戸内国際芸術祭を見るために行った小豆島で、お土産に買った醤油である。

ほっそりした黒い瓶、黄色いキャップ、歴史を感じさせるクラシカルなラベルが貼られて、味はかなりコクがある。鬼おろしですった大根にこのお醤油をたっぷりかけたものを、鶏鍋のつけだれにすると、とても美味しかった。美味しかった……過去形である。なぜならお土産に買った1瓶を使い切って、もうだいぶ経つ。なかば、その醤油のことも忘れかけていた。

先日、鶏鍋を、鬼おろし+ふつうの醤油で食べた。鶏むね肉を片栗粉で下ごしらえすると、ちゅるっとした食感になって美味だ。しかしつけだれの方は、なんだか物足りなかった。ふつうの醤油はさらっとしていて、コクに欠ける。ああ、あの小豆島の醤油、また買いたいなぁ~。

というわけで、原稿執筆の手を止め、ほとんど無意識のうちにPC画面をテキストからブラウザにササッと切り替え、「小豆島 醤油」で検索していた。わたしはあの醤油の、メーカーの名前も商品名も、メモしていなかった。検索したらすぐに出るだろう、どうせ通販でも買えるだろうと、高をくくっていたのだ。

ところが、「小豆島 醤油」のキーワードでは、わたしが求めるあの醤油は、まったくヒットしなかった。小豆島醤油組合会員の全メーカーをあたってみたものの、まさかの手がかりなし。なかにはサイトがないメーカーもあり、捜索は困難を極めた。この時点で深夜3時とかだ。……仕方ない、あの人に頼んでみよう。

あの人とは、“ネット探偵”こと、夫である。夫は検索能力に優れており、実際、以前この特技で大活躍したことがあった。自著『アズミ・ハルコは行方不明』を文庫化するさい、カバーに使いたいと思っていた写真があったのだけど、なにしろネットで見つけたものなので出所は一切不明。夫はこの一枚の写真を、ネットという大海原に最初にアップした人物、すなわち権利者の連絡先を、突き止めたことがあるのだ(権利者の方はエストニア人でした)。

そんなわけで、さっそく夫に醤油探しを協力してもらう。数時間が経過ーー。驚くべきことに、あの天才ネット探偵すら「お手上げ」と言う。そんなことってあるんだ……。エストニア人とも連絡とれたのに、まさか、市販されている醤油が見つからないだなんて。このネットの時代に……!

作戦を変え、わたしは推理した。そもそもあの醤油、小豆島のいったいどこで買ったんだ? 小豆島にはたくさんの醤油メーカーがあり、お土産売り場には無数の醤油が販売されている。あの日のわたしたちは、どうやって、その中からあの1本を選んだんだろう?

試食はしているに違いない。そしてなにより、あの醤油は瓶入りで重いので、移動最終日に買っているはずだ。では、わたしたちがあの重たい瓶を、手で持って帰るか? それはないな。ものぐさなので、きっと身軽になろうと、泊まったホテルからダンボールで送ったりしてるはず。ホテル? そうだ。泊まったホテルがあやしい! きっとホテルの朝食で味見して、気に入って売店で買ったんだ。そんでそのままホテルから送ってもらったんだ。きっとそう。だってわたしならそうするから! 犯人はわたしだー!!!

山内マリコ連載 ”きょうも家から出なかった”

ネット探偵にその推理を伝えると、彼はあの日宿泊したホテルの、レストランの取引業者一覧みたいなページにたどり着き、とある醤油メーカーの名前が捜査線に浮上したと言った。パッケージデザインを今風にリニューアルしたらしく、一見すると醤油らしからぬお洒落なボトルの写真が出てくる。しかしそのボトルの、旧デザインの写真はまったくヒットしない。でも、メーカーの屋号が書かれたラベルには、見覚えがある気が。これ……なんじゃないか?

そうして9割方の確率で、わたしが恋い焦がれているあの醤油は、ヤマハ食品株式会社の馬越醤油で間違いない気がしている。のだが、リニューアルした醤油もネット通販ではいっさい扱いがなく、気軽には買えないものだった。これはもう、また行くしかないか、小豆島へ。ちなみにその小豆島旅行で、〈二十四の瞳映画村〉のトイレにスマホをちゃぽんと落とした、嫌な思い出がある。

12月某日

一人暮らしのころはなにかとカレーを作った。一度作れば数日それで飢えをしのげるカレーは、料理嫌いにとっては大変ありがたい食べものである。しかし、夫と住みはじめてからはさすがに気が引けて、その手の雑な一人飯は封印されてしまった(ほかに、気が向いたときに大量の餃子を作って冷凍し、食べるときに蒸し焼きにして白いご飯にのっける餃子丼などが定番だった。あのころのわたしは中学生男子のようだ)。

カレーは好きだけど、カレーならなんでも好きなわけじゃない。欧風カレーはおしなべて苦手で、スパイス系のものが好き。いちばん好きな味は、原宿にあるカリーアップのバターチキンカレー。レトルトならS&B噂の名店シリーズの「大阪スパイスキーマカレー」と「荻窪すぱいす骨付きチキンカレー」を家に常備している。

山内マリコ連載 ”きょうも家から出なかった”

ある昼下がり、執筆の手を止めて、わたしは思った。「腹減ったな…」。しかし、時間的にも精神的にも、料理をする余裕はない。わたしはキッチンへ行き、レトルトカレーのストックが入った棚に手を伸ばした。すると、いつものストックに並んで、見慣れないパッケージが。「あしたのカレー 今日食べたい熟成の味 中辛」という商品名以上に目に飛び込んでくるのが、エプロン姿の美女。「カレー研究家 一条もんこ監修」とある。夫がジャケ買いしたようだ。

ハッタリ感の強いジャケ写と、「一条もんこ」のネーミングセンスに警戒心を募らせつつ、「どうせわたしが苦手な味だよ…」と後ろ向きな気持ちで食べてみると、これがうまかった! 家庭的なふつうのカレーなんだけど、なにか一味違う。飽きずにぱくぱく食べられる、優しいけど中毒性の高い味わいがある。野菜も美味しい。もんこのことを疑ったわたしが悪かった。さっそくAmazonで5個入りを注文する。わが家の常備レトルトカレーに、久しぶりに新しいメニューが加わった。いわゆるふつうの「家庭的なカレーライス」としては、初の入閣。歴史的快挙なり。

12月某日

うちの家ではわたしが事務方をつとめているため(主な仕事は食事会の企画や店の予約、旅行の手配)、家族で行く年末年始の温泉旅行の予約をあわててとった。当日をシュミレーションすると、小学校低学年と幼稚園児の姪&甥は、確実に退屈するだろうと予想。なにしろ温泉旅行はメインイベントが「入浴」と「食事」なので、子供にはきつかろう。そこで、みんなで遊べるおもちゃを用意しておこうとリサーチ。5歳児からじいさんまでが一緒に遊べて、かさばらない(←ここが重要)おもちゃを探し、〈キャプテン・リノ〉というカードゲームを見つけ、ためしに買ってみた。

山内マリコ連載 ”きょうも家から出なかった”

その〈キャプテン・リノ〉を、夫とやってみる(修学旅行の下見に行く先生たちのようだ)。壁と屋根のカードを順番に積み上げてタワーにしていき、崩した人が負けというシンプルなゲーム。箱を開けるとトランプ状のカードと、キャプテン・リノという名の(たぶんカバの)キャラクターが入っている。かさばらないことを重視して選んだとはいえ、内容物の素っ気なさになんだか不安になる。カードのイラストは可愛いけど、本当におもしろいのか、これ?

半信半疑でやってみた〈キャプテン・リノ〉は、アラフォーの夫婦2人でもかなり盛り上がった。ふふふ、子供たちは絶対ハマるはずだわ。これで年末年始の温泉旅行は勝ったも同然(なにに?)。

それではみなさん、よいお年を~☆

文=山内マリコ

山内マリコ

作家。1980年富山県生まれ。2008年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。2012年刊行のデビュー作『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎文庫)が映画化され、4月24日Blue-ray&DVD発売。近刊に『あのこは貴族』(集英社)、『メガネと放蕩娘』(文藝春秋)、『選んだ孤独はよい孤独』(河出書房新社)。3月14日に新刊『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)発売。

イラスト=戸屋 ちかこ

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