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「モチイエ女子」、ありだと思う。

つい最近まで、女性がひとりで家をもつって
ごく少数派で、ちょっと変わってると思われていた。
マイホームをもつことは、家族の幸せと考えられていた。

いったい誰がそんなことを決めたんだろう。

女性が家をもつって、あんがいあたりまえじゃない?

そんな声が聞こえてきそうなほど、
今、ごくフツーの女子たちが、じぶんの家を買う時代になっています。

家というホームグラウンドを手に入れ、
これまで以上にパワフルに、イキイキと輝いてる「モチイエ女子」。

そんな新しい女性たちが増えれば、この国はもっともっと元気になるから。
なによりそんな未来が、素敵でおもしろそうに思うから。
私たちはこの「モチイエ女子project」を通し、
その生き方、あり!と宣言します。

モチイエ女子web

山内マリコ連載 きょうも家から出なかった

大したことは起こらないけれど、家にいられるだけで充分幸せ。山内マリコが綴る“家から出ない日”の日記。

BACK NUMBER

Nov.2018 はちみつ、停電、リバーシ禁止令。

11月某日

大量のはちみつをもらった。

ことの起こりは数ヶ月前、富山でやっているラジオ番組。ゲストに来ていただいた養蜂家の池田薫さんのみつばちトークに魅了されたわたしは、夏の番組イベントにもぜひ池田さんに登壇してもらいたいとオファー。当日はトークショーだけでなく、物販コーナーではちみつを売っていただいたのだった。

※みつばちトークとは、働き蜂はメスだけ、オスは生殖しかせず用が済んだらそっと死んでいく(寿命がとても短い)、そして女王蜂はすべてを支配しているようなイメージに反してひたすら子供を産むだけのけっこうつらい一生を送る…などといった、わりと身も蓋もないみつばちの生態に赤裸々に迫ったもの。聞けば聞くほどみつばちが好きになる。そして「男と女とは…」「生きるとは…」と考え込んでしまう素晴らしい話。

夏の番組イベントを見に来ていたうちの父が、物販コーナーで池田薫さんの〈はちみつや〉の商品を購入。とても気に入ったらしくすぐ食べきってしまい、直売のお店をたずね、そこで大量購入したものを分けてくれたのだった。

山内マリコ連載 ”きょうも家から出なかった”

ここで特筆すべきは、団塊世代のおじさん(おじいさん?)である父が、わざわざ自分で買いに行くほど、そのはちみつがおいしかったということである。非加熱で無添加、さらっとしていて甘さがしつこくなく、香りも自然でさりげなく、これまで食べてきた市販のはちみつと全然違う!

わたしも以前、池田さんからいただいた瓶入りのはちみつを、あっという間に食べたことがあった。ちょっと風邪っぽくて栄養のあるものしか受けつけなくなってたとき、紅茶にこのはちみつを入れて飲みまくったら、ギリギリのラインで回復。仕事に穴を開けずにすんだ。

そんなわけで父が買ってきた池田さんのはちみつをありがたく分けてもらったのだけど、1年分くらいありそうな特大サイズなので、瓶ではなく、ビニール袋に入れて封をされていた。父もペット容器に移し替えて使っているという。これは……ついにアレを買うチャンスではないですか!

わたしが長年、心ひそかにあこがれていたもの、ハニーディスペンサー。こんなに愛らしいデザインの不思議な物体、なかなかないのでは? キッチンまわりのグッズのなかでも「すてき」の上位にいるバターケースの、ゆうに10倍はときめく! 思わずデヴィッド・ハミルトン調のまばゆい光で写真を撮ってしまった。

はちみつをサーブすることに特化しながら、ここまで手の込んだ、余計な部分が多いデザインを作り出す西洋人のデコラティブな感性に乾杯。キレもよく、使い心地も最高~。グレープフルーツにかけたり、トーストにかけたり、コーヒーに入れたり、なにかと出番が多くなり、1年分と思ってもらったはちみつがすでに残りわずかだ。

11月某日

富山のアンテナショップ(日本橋とやま館)でチューリップの球根を買ってから、放置しつづけること1か月。そろそろやらねば間に合わないぞと己に発破をかけ、ついに重い腰をあげる。狭いベランダでほそぼそと園芸ライフを営んでいるため、球根を植えるのも大仕事だ。

山内マリコ連載 ”きょうも家から出なかった”

ベランダ園芸は、季節ものをどうローテーションさせるかが肝。メインのプランターは、秋が深まったころにヒヤシンスやチューリップなどの球根を植えて、冬はほんのちょっとずつ成長する芽を愛で、春に花が咲いたら収穫(幸せのピーク)。いったん土を広げて乾かして、回復させてから、夏はグリーンカーテン用にアサガオやゴーヤ、フウセンカズラなどを植える、というローテーションでやってきた。土を使い捨てにするわけにもいかず、せっせとリサイクルに励んでいるのだが、狭いベランダで土を広げて乾かすのは本当に腰にくる。

しかも、夏の名残りのアサガオがまだ花をつけているし、種も乾いていないのでメインのプランターがなかなか空かない。仕方なく、荒れてきたハーブガーデン(不織布プランターを使用)の土をリサイクルすることに。ひとまずは、園芸用のふるいで根っこを取り除く作業を黙々とやる。疲れた…。

11月某日

朝ドラを欠かさず見ている。伏線なのか、やたらラーメンが出てくるシーンが多くて、見るたびに「あ~ラーメン食べたい!」と絶叫してしまう。

ならばラーメン屋さんに行けばいいかというと、これが難しい。街のラーメン屋さんはどの店もそれぞれにこだわりがあるので、あのドラマに登場するような昔ながらの素朴な醤油ラーメンは、いまや絶滅危惧メニューなのだ。あのタイプの醤油ラーメンを食べられる店、いったいどこにあるんだろう? そしてもしラーメン屋さんで600円くらい払ってあのタイプの素朴な醤油ラーメンを出されたら、「うん、フツー」と一刀両断するであろう。げに、あの素朴な醤油ラーメンは、もはやおいそれとは食べられないレアな代物なのだ。

それで、近所のスーパーでラーメンの材料を買い揃え、お昼に作って食べようともくろんだ。味玉を茹で、ネギを切り、チャーシューをスタンバイ。袋から生麺を取り出し、鍋いっぱいのお湯にほぐし入れる。2分にセットしたキッチンタイマーをON。丼にスープのタレをあけ、お湯を沸かそうと電気ケトルのスイッチを入れた、そのときだった。

つけっぱなしのテレビや電気ケトルの電源が、いっせいに落ちた。やっちまった…。うちは冬になってオイルヒーターを使いはじめると、がんがんブレーカーが落ちるのだ。電気ケトルのせいか? などと首を傾げながらブレーカーを見ると、落ちてない。よく見ると、床暖や照明器具は問題なくついてる。え? え? え? なにか特殊なタイプの停電か???

心がざわざわしつつも、麺を茹ではじめてしまったので迷っている暇はない。一旦停電のことは忘れてラーメン作りに集中する(この判断をする間、5秒)。別の小鍋に250mlの水を入れて強火にかけ、スープを作って茹で上がった麺を投入、メンマを上にのせ、ダイニングテーブルに運んだ。

そしてラーメンを食す。が、すでに全然ラーメンを食べる気分ではない。だっていま、停電してるんだもの! テレビも点かず、冷蔵庫も止まっている。大変なことだ。原因はわからないけど、コンセントだけショートしたのかもしれない。まったくもって食べている場合ではないが、さっさと食べなければ味が落ちるだけ。心を無にして、わたしは食べた。味がわかんなかった。

※配電盤を開けたら、コンセントのブレーカーが落ちていた。こういう部分的なブレーカーの落ち方もあるのか、そうかそうか。

11月某日

世界オセロ選手権で、小学五年生の日本人の男の子が優勝、おめでとうございます! そのニュースが心の片隅にあったからか、タブレットにリバーシのアプリが入っていたので、なんとなくやってみた。

初級に設定すると、AIがすごくわざとらしく負けてくるので逆に腹が立ち、中級にトライしてみたら、今度はAIにけちょんけちょんに負かされてしまい、わたしは憤慨してますますリバーシに熱中した。中級AIの手加減のなさは恐ろしいほどである。憎々しいほどわたしをもてあそぶAI。「顔を見せろ!」と怒鳴りそうになるのをぐっとこらえ、何度もトライし、返り討ちにあう。

山内マリコ連載 ”きょうも家から出なかった”

あまりにも勝てなくて、どんどん心が波立った。パチンコやネトゲなど、ゲーム中毒の人のつらさがちょっとわかったくらい…。「もうやめなよ」と話しかけてきた夫に暴言を吐き、しまいには本を読んでいても、文字列でリバーシをはじめる妄執(?)に取り憑かれだした。

夫からリバーシ禁止令を出され、わたしは仕方なく第一線から身を引いた。あれは本当に底知れないゲームですよ…。ハマってたのは2日くらいだったけれど、世界オセロ選手権で優勝することがどのくらいすごいことなのか、身をもって実感したのだった(それは神の領域です!)。

※9月に「行く」と言い、10月にまだ行ってないと報告した金継ぎ教室。今月も行ってない。行く気はあるのだけど。そして口の欠けた急須でお茶を淹れるのはもうイヤなのだけど…。

文=山内マリコ

山内マリコ

作家。1980年富山県生まれ。2008年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。2012年刊行のデビュー作『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎文庫)が映画化され、全国順次公開中。近刊に『あのこは貴族』(集英社)、『メガネと放蕩娘』(文藝春秋)、『選んだ孤独はよい孤独』(河出書房新社)。

イラスト=戸屋 ちかこ

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