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「モチイエ女子」、ありだと思う。

つい最近まで、女性がひとりで家をもつって
ごく少数派で、ちょっと変わってると思われていた。
マイホームをもつことは、家族の幸せと考えられていた。

いったい誰がそんなことを決めたんだろう。

女性が家をもつって、あんがいあたりまえじゃない?

そんな声が聞こえてきそうなほど、
今、ごくフツーの女子たちが、じぶんの家を買う時代になっています。

家というホームグラウンドを手に入れ、
これまで以上にパワフルに、イキイキと輝いてる「モチイエ女子」。

そんな新しい女性たちが増えれば、この国はもっともっと元気になるから。
なによりそんな未来が、素敵でおもしろそうに思うから。
私たちはこの「モチイエ女子project」を通し、
その生き方、あり!と宣言します。

モチイエ女子web

山内マリコ連載 きょうも家から出なかった

大したことは起こらないけれど、家にいられるだけで充分幸せ。山内マリコが綴る“家から出ない日”の日記。

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Oct.2018 ハーブティー、壊れたテレビ、ミステリアスなクリーニング屋さん。

10月某日

普段はコーヒー党だけど、夏の間はずっと紅茶党。マリアージュ フレール(紅茶専門店)のマルコ・ポーロを水出しアイスティーにすると癖になる美味しさで、100g入りの缶をあっという間に飲みきってしまった。台湾旅行で買った烏龍茶とジャスミン茶も水出しにして冷蔵庫に常備しているため、毎晩寝る前にせっせとお茶を仕込む日々。地味に面倒だったが、美味しかった。

そして10月――。

季節の変わり目とあって体調がちょくちょくあやしくなり、平常~風邪っぽい、の間を行ったり来たりと微妙な感じ。しかし10月はなにがあっても体を壊すわけにはいかない。今月公開される映画『ここは退屈迎えに来て』の宣伝のため、いろいろ駆り出されているのだ……。

10月に入ってからというもの、ロケ地でもある出身地の富山県に、毎週のように出張の予定が入っている。主演の橋本愛ちゃんと一緒に、ローカルの情報番組に出たり、試写会で舞台挨拶したり。ガチガチに組まれた分刻みのスケジュール表を見るたび、「うおお、これは風邪ひけない!」という緊張感に包まれた。

山内マリコ連載 ”きょうも家から出なかった”

そして体調管理の一環として、ついにわたしはハーブティーに手を出したのだった。

わたしのハーブティーへのあこがれ歴は長い。中学生くらいのころから、ハーブのある暮らし&ハーブティーをほのかに夢見ているけれど、その昔、ハーブティーを一口飲んでこう思ったのである。「まずいな」って。「味がぼや~んとして、飲めたもんじゃない」って。圧倒的に日本人好みではない味ゆえ、ハーブティーを好む人々を、「この嘘つき!」と心の中で思ったことも一度や二度ではなく……。

しかし、ついについに、わたしはハーブティーを自ら買った。ビタミンたっぷりで美肌にいい、リラックス効果で夜はぐっすり、などのふわっとした効能に惹かれて。

ガラスポットにティーバッグを入れて、お湯を注いで一口。昔感じたほど、まずくはない気がする。ブレンドがどうのこうのというより、体がこういうのを欲しているせいかも。そういえばコーヒーも、ずっと砂糖とミルクを入れないと飲めなかったけど、いつの間にかブラックが好きになったし。

お茶の好みの変化で、自分の年齢を思い知らされた夜……。

10月某日

大変なことが起こってしまった。テレビが、テレビが、テレビが……壊れたぁあああああ! ショックショック、これは本当にショック。10月は改編期で、新しいドラマがいろいろはじまるのに~。楽しみにしていたドラマの初回が録画できないという、超緊急事態である。

それにしてもうちのテレビ、ちょっと壊れすぎだ。2014年に買って以来、修理に出すのはこれで2度目。買ったときは50インチの4K ということで、手放しでよろこんだものだが。

山内マリコ連載 ”きょうも家から出なかった”

しかも、外付けでなにかを増設したことで(ここらへんの仕組みはわたしにはわからない)、全録というのができたのだ。ほぼ全チャンネルを勝手に録画してくれて、数日間保存してくれる夢のような機能のおかげで、わたしのテレビ視聴に革命が起きた。いちいち予約しなくても数日分のテレビが見放題! それはまるで、全宇宙を手中に収めたかのような万能感……!

そういう快適なテレビライフを送っていたことがアダとなって、全録機能のない生活は本当にこたえる。一瞬、思い切って買い換えようかとも思うけれど、いまのテレビよりいいやつとなると、有機ELディスプレイ50万前後という素敵な価格帯に突入するという。

ということで、保証のきく修理に出す。

10月某日

映画のプロモーションを兼ねた4日間の出張から帰ると、夫が育てているトマトが色づいていて驚いた。さかのぼること数ヶ月前、コンビニでおもむろに夫が買った〈黄金トマト お家で簡単 ペットボトルで野菜ができる!〉という名の、トマトの栽培キット。3~4ヶ月でできるそうだが、夏前に種を植えてからというもの(正しくは、空きボトルの口の部分にホルダーをセットしてからというもの)、ぐんぐん茎が伸びて葉っぱがしげり、花まで咲いたものの、なかなか実がならなかったのだった。

山内マリコ連載 ”きょうも家から出なかった”

それもそのはず。ふと、「そういえば、ミツバチが来ないのに、どうやって受粉するんだろう?」と思って育て方を読み直すと、「花が咲いたらよく揺らして」と書いてあった。

揺らしてから数日、花が終わって根本のガクの部分が、ぷっくりしはじめた。その行程の新鮮なこと! じょじょに実がふくらんでトマトらしくなってきたものの、緑色のままキープされ、また小康状態に突入したのだった。

それが4日! たった4日! 4日ぶりに家に帰ってきたら、すっかり別人の顔してるんだもん。これまで長々と発育ぶりを見守っていたのに、4日で他人になってしまうとは。なんかせつねえなぁ。まあ、全然いいんだけど。

10月某日

久しぶりにクリーニング屋さんに電話した。冬服をどっさりクリーニングに出したのは、かれこれ7月のことである。

このクリーニング屋さんは、わたしが住むマンションの部屋の、前住人からのおすすめだった。「あそこのドライクリーニングは石油臭くなくていいよ、配達してくれるし」と聞くなり、すぐさま電話番号を控えて、かけてみたのがはじまり。以来、シーズンごとに定期的に服を出している。もう3年のつき合いだ。のわりに、謎が多い。

配達に来てくれる人は決まっていて、中年の、ちょいとしたいい男である。顔立ちが整っていて痩せ型でオシャレ。作業服ではなく、いつもいい具合にカジュアルな私服を着ている(わたしは彼以上にカジュアルをものにしている中年男性を知らない)。

彼は礼儀正しく、いつも感じがいい。寡黙でもなく、饒舌でもない。絶妙なさじ加減だ。いい男だからほのかに女性を緊張させるが、威圧的ではない。そしてうっかり口が滑ってパーソナリティがわかるヒントをこぼすこともない。ミステリアスだ。しかし彼以上にミステリアスなのは、この店のシステムだ。

わたしが冬服を出して3ヶ月、一度も向こうから連絡がないのだ。服を出すときに、「○月○日に仕上がります」みたいなことも言わなければ、「出来ました」「いつうかがいましょうか?」という連絡もない。後払いだから、受け取りのときにはじめて財布を開くため、騙されている感じはない。ただ、服を出したあと、長い沈黙がつづくのである。

そうして、本当に冬服が必要になってはじめて、わたしは彼に連絡する。指定した配達の日に、彼が来なかったことは一度もない。電話に出なかったときでも、あとで必ずコールバックがあるし、信頼の置ける人物であることに間違いはない。クリーニングの仕上がりもいい。でもいつも思う。この店のシステムはどうなってるんだ?と。もしかしたら、シーズンオフの服を預かってくれるサービスがあるのか? 公式サイトはある。しかし配達なので、店を見たことはない。実在してるのしてないの? 謎は深まるばかり……。

今日、3ヶ月ぶりに彼に会った。相変わらずいい感じの枯れっぷり。そして素敵にカジュアルな着こなしだった。「このワンピースはすぐ着たいので、早めにお願いします」と言っておいたから、近々また会えるはず。じわじわと、システムのことを聞き出そうと思う。

※ちなみに、9月に「行く」と言い切っていた金継ぎ教室には、まだ行っていない。割れた皿が増えたので、来月こそ行かねば。

文=山内マリコ

山内マリコ

作家。1980年富山県生まれ。2008年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。2012年刊行のデビュー作『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎文庫)が映画化され、10月19日より全国公開。近刊に『あのこは貴族』(集英社)、『メガネと放蕩娘』(文藝春秋)、『選んだ孤独はよい孤独』(河出書房新社)。

イラスト=戸屋 ちかこ

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